新しい自分

ボクシングの練習生となったわけだが、

全てが一からのスタート。

スタミナもリズムもあったもんじゃない。

それでも練習を続けていると、新しい自分を見つけられる気がした。

毎朝のロードワークで走る距離も徐々に増えていった。

練習が辛いときは、[奴]の顔を思い出しては動力へと変換した。

頭の先からつま先まで、汗にまみれて練習に没頭していると、心からの爽快感を味わえた。

そんなボクシングライフに没頭し出してからというものは、不思議と[奴]の僕への当たりが少し変わって来た。

友好的な匂いを感じると言うか…。

それでも僕の心は決心していたので、もうどうでも良かった。

とにかくあと1年我慢して、この会社は辞める。

ただそれだけ。

そんな事より、ボクシングライフが楽しかった。

と同時に、ジムで練習するまだ学校を卒業したばかりのような若い子を見ていると、

 

「僕ももっと若くからボクシングと出会っていたらなぁ…。」と若い練習生の動きに嫉妬した。 

僕はこの時すでに、24か25歳位だったかな…。

「まぁ、僕なりに頑張ってみよう。」

 

 

少しばかり元気を取り戻し始めると、カメちゃんの事が急に気になり出した。

長い苦しみの間、カメちゃんの水槽を覗く元気すらなく久しぶりの対面であったが、僕が覗き込むとエサでも欲しいのか、僕めがけて走ってくる姿に笑みがこぼれた。